2020年からのコロナ禍で大変な苦境に立たされたホテル業界ですが、徐々に観光業復活の兆しが見える中、改めてホテル経営に注目が集まっています。
ホテル経営に興味がある人に向けて、ホテル業における4つの形態やホテル開業に必要なもの、役立つ資格などをわかりやすく解説します。
Contents
ホテルの4つの経営形態
ひと口に「ホテル経営」といってもそのスタイルはさまざまで、おもに4つの経営形態があります。
一概に「どれがいい」というものではなく、それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の状況や目指すところに応じて、最適な経営形態を選ぶことが重要になってきます。
所有直営方式
「所有直営方式」は、運営会社がホテルの建物や土地を所有するスタイルのこと。その名の通り、同じ会社が「所有」と「運営」の両方を行う、オーソドックスなホテルの経営形態で
す。
有名どころでは帝国ホテルやプリンスホテルのほか、鉄道系ホテル、航空系ホテルの多くがこの方式を採用しています。また、個人経営の小さなホテルや旅館も、この所有直営方式をとっているところが多くあります。
所有直営方式のメリットとして、ホテルの所有者と運営者が同一のため、迅速な意思決定がしやすいことが挙げられます。また、土地や建物を所有しており、社会的信用があることから、金融機関からの融資が受けやすいという利点もあります。
一方、所有直営方式のデメリットは巨額の初期費用が必要になることです。土地の取得や建物の建設はもちろんのこと、ホテルの維持・管理にも大きなコストがかかります。
管理運営委託方式
「管理運営委託方式」は、ホテルの土地や建物の所有者(オーナー)が、ホテルの運営を別会社に委託する経営形態のこと。「マネジメントコントラクト方式(MC方式)」とも呼ばれます。
管理運営委託方式はアメリカ発のホテル経営の形態で、近年は日本でもインターコンチネンタル、マリオットなどの外資系ホテルで採用されることが多くなっています。
管理運営委託方式のメリットは、「所有」と「運営」を分離することで、それぞれの得意分野に集中し、経営の合理化が図れることです。建物の所有者がホテル経営のノウハウを持っていなくてもホテル経営に参入できますし、運営会社から見れば、土地や建物を取得するための莫大な資金がいらなくなります。
一方、管理運営委託方式のメリットとして、「所有」と「運営」が分かれることで、利害が一致したときの調整が難しかったり、意思統一に時間がかかったりすることが挙げられます。
フランチャイズ
コンビニなどで知られる「フランチャイズ」は、ホテル経営でも採用されている形態のひとつです。ホテルの所有者(オーナー)がホテルチェーンとフランチャイズ契約を結び、本部に加盟料とロイヤリティを支払ってホテルの運営と経営を行います。
フランチャイジー(加盟者)になると本部からのバックアップが受けられるため、ホテル運営ノウハウを持たない個人や企業でも、ホテル経営に乗り出すことが可能となります。また、知名度の高いホテルチェーンの名前を冠することで、集客がしやすくなるというメリットもあります。
一方で、ホテルの経営状態が芳しくなくても、本部への加盟料やロイヤリティの支払いが継続的に発生するという点がデメリットとして挙げられます。
リース方式
「リース方式」は、ホテルの運営会社が建物の所有者(オーナー)にリース料を支払いながら、ホテルの運営と経営を担うスタイルです。「テナントとして家賃を払いながら商売をする」と考えるとわかりやすいでしょう。
ホテルの運営者・経営者から見ると、不動産を持たなくてもホテル経営に参入できるというメリットがある一方で、ホテルの収益が低迷しても一定のリース料を払い続けなければならないというデメリットがあります。
ホテル経営をする際に必要なもの
実際にホテル経営に乗り出すときは、どのような段取りを踏めばいいのでしょうか。ここで、ホテル経営に必要なものをおさえておきましょう。
旅館・ホテル営業許可
ホテルは旅館業法の規制対象となるため、法律にのっとって営業許可を取得する必要があります。「ホテル」としての営業許可を受けるためには、「客室数10室以上」「洋式客室9㎡以上」などの要件が定められているため、できるだけ早い段階で確認しておいたほうがいいでしょう。
また、レストランやルームサービスで食事を提供する場合は「飲食店業営業許可」、宿泊者以外も利用できる浴場を設置する場合は「公衆浴場営業」の取得も必要になります。
開業・運用資金
ホテル経営の最大のハードルともいるのが、開業・運用資金の準備です。
開業に必要な資金はホテルの規模や立地等によって大きく異なりますが、地方で15~20室程度の小規模ホテルを開業する場合でも、最低1,500~3,000万円程度の資金が必要だといわれています。知名度の高いホテルチェーンに加盟する場合は、数億円~10憶円程度を準備して置く必要があります。
当然のことながら、開業資金に加えて、当面の運転資金も用意しておかなければなりません。
このように、ホテルの開業には莫大な費用がかかるため、出資を受けたり、金融機関から融資を受けたりして資金を調達するのが一般的です。
物件
ホテルを開業するには、ホテルの「ハコ」となる建物の建設または購入が必要になってきます。ただし、前述の通り、リース方式を採用するなど、物件の建設や購入をすることなくホテル経営に乗り出す方法もあります。
事業計画
ホテル経営に限ったことではありませんが、新しいビジネスをスタートする際は事業計画の策定が欠かせません。
事業計画には、市場環境の分析やターゲット層、コンセプト、サービス内容、集客・宣伝方法、人員計画、資金計画、仕入計画などを盛り込みます。
従業員
ホテルの運営にあたっては、サービスに携わる従業員を採用しなければなりません。早い段階から計画的に採用を行い、オープン前から教育をしておくといいでしょう。
ホテル運用システム
ホテル運営に必要なシステムとして、「予約管理」「客室管理」「売上管理」「顧客管理」「データ分析」が一元的に行える「PMS(Property Management System)」が挙げられます。PMSがあれば、複数のOTA(Online Travel Agent)の情報も一元管理することができます。
ホテル経営に資格は必要?
ホテル経営に乗り出すにあたって、資格の取得は必要なのでしょうか。ホテル経営に必要な資格は規模やサービス内容によって変わってくるため、ホテル経営に必ず資格が必要というわけではありません。
ただし、「資格があったほうができることの幅が広がる」「運営がスムーズになる」といったメリットがあります。そこで、ホテル経営に関連する資格をご紹介しましょう。
食品衛生責任者
レストランやルームサービスなど、食品を扱うサービスを提供する場合には、食品衛生に関する公的資格である「食品衛生責任者」の取得が必須となります。
消防設備士
一定以上の規模のホテルでは、消火器、火災警報機、避難はしごといった消防設備の設置が義務づけられており、これらを取り扱うことができるのが「消防設備士」の資格を持つ人です。
危険物取扱者
ボイラーの燃料として重油などを大量に保管する場合などは、「危険物取扱者」の資格を持つ人を配置しなければなりません。危険物取扱者には複数の種類がありますが、ホテル経営で特に役立つのが「乙種4類」です。
語学系
ホテルは外国人を相手にサービスを行う機会が多い業種のひとつです。外国人相手にもスムーズな接客サービスを行うためには、外国語対応が欠かせません。
必ずしも資格が必要というわけではありませんが、英語や中国語など、客層やターゲット層に合わせた言語が話せるスタッフを配置すると、外国人ゲストの満足度向上につながります。
サービス・マナー系
ホテル経営において、サービス・マナーの向上は差別化を図る要素のひとつ。ホテルに関連するサービス・マナー系の資格として「サービス接遇検定」「ユニバーサルマナー検定」「接客サービスマナー検定」「レストランサービス技能検定」などがあります。何らかのインセンティブを用意して、従業員にこうした資格の取得を促すのもいいでしょう。
ホテル経営を成功させるポイント
アフターコロナに向けて、ホテル経営には大きな可能性があるものの、宿泊施設の多様化が進む中、単純に「ホテルをオープンすれば人が来る」という時代ではありません。
ホテル経営を成功させるために、次のことを念頭に置いておきましょう。
ターゲットとコンセプトを明確にする
「ライフスタイルホテル」や「グランピング」といった新しい形の宿泊施設が注目されるなど、近年は宿泊施設の多様化が進んでいます。そんな中で「選ばれるホテル」になるためには、ターゲットとコンセプトを明確にして、ターゲットに「刺さる」特徴を打ち出すことが重要です。
ターゲットを設定する際は、単に「ファミリー層」「カップル」といった区分だけでなく、年代や年収、居住地、職業、趣味、ホテルを利用するオケージョン、ホテルに求めることなど、ゲストの詳細なプロフィールである「ペルソナ」まで踏み込んで考えるといいでしょう。ターゲティングについてはこちらの記事も参考にしてください。
集客の施策を考える
数あるホテルの中から選ばれるためには、集客施策が欠かせません。特に近年は、インターネット上の施策の重要性が高まっています。
OTA(Online Travel Agent)への掲載はもちろんのこと、SNS活用による認知拡大、ホテル公式サイトのSEO対策など、さまざまな施策を組み合わせることが成果への近道となります。
データに基づいた意思決定をする
ホテル経営の成功にはレベニューマネジメントが欠かせませんが、現実には、支配人や担当者の勘や経験に基づいて客室料金の設定が行われているケースも珍しくありません。
これからのホテル経営においては、レベニューマネジメントツールなどの導入により、客観的なデータに基づいた意思決定をすることが収益最大化のカギとなるでしょう。レベニューマネジメントについてはこちらの記事をぜひ参考にしてください。
まとめ
ホテル業にはおもに4つの経営形態があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。また、ホテル開業にあたっては、旅館・ホテル営業許可の取得が必須であり、多額の初期費用も必要となります。
初期投資が大きいからこそ、ホテルの開業に際しては、しっかりとした事業計画やマーケティング戦略を立てることが重要になってきます。また日々の運営においても、レベニューマネジメントツールなどを活用して、自動化できる業務は自動化しながら、データドリブンな意思決定をしていくことが大切だといえるでしょう。
■記事作成:メトロエンジン株式会社
2016年創業。ダイナミックプライシングを活用したSaaSシステムのパイオニアとして躍進。ビックデータから人工知能・機械学習を活用し、客室単価の設定を行うダイナミックプライシングツールをホテルなど宿泊事業者に提供。また、レンタカー業界や高速バス業界など幅広い業界のDX支援事業も展開している。
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