さまざまな業界で活用が広がっている「ダイナミックプライシング」とは、需要と供給の状況に応じて、商品やサービスの価格を柔軟に変動させる仕組みのことです。
最近ではダイナミックプライシングの領域でもAI活用が進んでおり、AIを使ったツールを導入することで、ダイナミックプライシングのプロセスの大部分を自動化できるようになっています。今注目のAIダイナミックプライシングについて、その仕組みやメリット・デメリット、導入事例まで詳しく解説します。
Contents
従来のダイナミックプライシングとは?
「ダイナミックプライシング」とは、需要と供給の状況に応じて、柔軟かつ高頻度で商品やサービスの価格を変動させる仕組みのことです。ホテルや航空券はもちろん、最近ではテーマパークの入場料やスポーツイベントのチケットなど、幅広い分野で活用が進んでいます。
ダイナミックプライシングにおいては、「データ収集・分析」と「需要予測」という2つのプロセスを経て価格が設定されます。従来のダイナミックプライシングでは、こうした「データ収集・分析」や「需要予測」をすべて人の手で行っていました。
需要と供給の状況に基づいて最適な価格を設定するためには、過去の実績や顧客動向、経費などさまざまな要素を考慮する必要があることから、データ収集・分析を人の手で行うには膨大な時間がかかります。きめ細かく価格を調整することにより、収益を最大化できる可能性が高まる一方で、ダイナミックプライシングは非常に手間のかかる仕組みだったのです。
また、ダイナミックプライシングを人の手で行うには相応のスキルや経験が求められることから、値決めが担当者の経験や勘に依存する「業務の属人化」も課題となっていました。
ダイナミックプライシングの基本についてはこちらの記事をご覧ください。
現在はAIを使ったダイナミックプライシングが主流
ダイナミックプライシングを人の手で行うには、膨大な手間や時間がかかるもの。担当者は、相応のスキルや経験が求められます。したがって、従来は「ダイナミックプライシングを導入したくても、社内にノウハウやリソースがないため実現できない」という企業も存在していました。
ところが、近年のテクノロジーの進展によってこうした状況が一変。AIを使ってダイナミックプライシングを自動化できるツールが登場したことにより、ダイナミックプライシングを人の手で行う時代は終わりを迎えつつあります。
AIダイナミックプライシングの普及により、ダイナミックプライシングは今後、今まで以上に日常のさまざまな場面に浸透していくことになるでしょう。
AIダイナミックプライシングの仕組み
AIを使ったダイナミックプライシングにおいては、過去の販売実績や在庫状況はもちろん、カレンダーやイベントスケジュール、天候や競合の動向といった需要に影響するビッグデータを基に、AIがリアルタイムで最適な価格を導き出します。
AIの活用によって、手動であれば膨大な手間の時間のかかるデータ収集から分析までのプロセスを自動化することができるのです。
また、AIであれば機械学習が可能であることから、回数を重ねてデータが溜まれば溜まるほど、価格設定の精度が高まると考えられます。
AIダイナミックプライシングのメリット
ダイナミックプライシングは、需要予測に基づいて最適な価格を設定することで、収益の最大化を図る仕組みです。
ダイナミックプライシングを人の手で行うと膨大な手間と時間がかかります。しかし現代は、AIを活用してダイナミックプライシングのプロセスを自動化できる時代です。これに頼れば現場の業務負荷を大幅に軽減することができます。たとえばホテル業界であれば、接客などより直接的に顧客満足度を左右する業務に注力することが可能になります。
また、人の手によるダイナミックプライシングは、担当者の勘や経験に左右されやすいという要素がありますが、AIを活用することによってデータ収集や分析がより客観的になり、業務の属人化を解消できるというメリットもあります。
従来は、ダイナミックプライシングに必要な経験やノウハウを持つ担当者がいない企業はダイナミックプライシングの導入が困難でしたが、AIを活用したサービスの登場により、ノウハウやリソースが乏しい企業でもダイナミックプライシングを導入しやすくなっています。
AIダイナミックプライシングのデメリット
一方、AIダイナミックプライシングのデメリットとして導入コストが挙げられます。ダイナミックプライシングが収益を最大化するための仕組みであるとはいっても、投資コストや運用の手間を上回る効果を出せるという保証はありません。
また、AI活用の有無に関係なく、ダイナミックプライシング全般のデメリットとして、過剰な価格調整は消費者からの反発や不信感を招き、顧客離れにつながるリスクがあることがあげられます。
AIを使ったダイナミックプライシングの事例5選
ここまでみてきた通り、ダイナミックプライシングにはメリットとデメリットの両面があります。だからこそ、ダイナミックプライシングを導入する際は、デメリットを軽減しつつ、メリットを最大化するようなバランスの取れた運用が必要です。
そこで、実際にAIダイナミックプライシングを活用している企業の事例をご紹介しましょう。
スーパーマーケット「トライアル」
福岡市に本社を置くスーパーマーケット「トライアル」は、2018年12月、リテールAIによるIOTを実現した「トライアル Quick大野城店」をオープン。
約1万2000枚の電子プライスカードを全商品に導入し、需要と供給に合わせて価格設定を行うダイナミックプライシングを採用しました。全商品への電子プライスカードの導入は、国内の小売店においては最先端の取り組みとなっています。
ホテルベンチャー「OYO」
2013年にインドで創業し、2019年には日本にも進出した「OYO」は、データ活用で急激な成長を遂げてきたホテルベンチャーです。
ホテルを検索しているユーザーの所在地や目的地などに応じて宿泊料金を変動させており、1時間あたり14万件にのぼるビッグデータを基に、1日6000万回以上もの価格調整を行っています。
膨大なデータから、常に最適な価格を設定するこの戦略が功を奏し、「OYO」加盟ホテルは安定して高い稼働率を実現しています。
福岡ソフトバンクホークス
福岡ソフトバンクホークスとヤフーは、2019年のオープン戦から、ヤフオクドームにて開催される試合のチケットにダイナミックプライシングを導入しました。
過去の販売実績データに加え、リーグ内の順位や対戦成績、試合日時、席種、席位置、チケットの売れ行きといったさまざまなデータから、試合ごとの需要をAIが予測し、列位置や通路側・中席といった1席単位での販売価格の調整を可能にしています。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
大阪のアミューズメントパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」は、2019年1月にダイナミックプライシングを導入(社内では「変動価格制」と呼ばれています)。
USJにおけるダイナミックプライシング導入の目的は、繁忙日と閑散日のチケットに価格差を付けることによって、入場者数を平準化し、顧客満足度を高めることでした。曜日ごとの来場予測や、予約の消化率などのデータに基づき、数ヵ月先までのチケット価格が決められています。
配車サービス「Grab」
マレーシア発、シンガポール育ちの「Grab」は東南アジアでサービスを展開する配車サービス。時間帯や天候、道路状況、需要などによって運賃が変動するダイナミックプライシングを取り入れており、同じ区間であっても利用のタイミングによっては3倍以上の価格差が生じることもあります。
需要が集中するタイミングは運賃が高騰するものの、需要が少ないタイミングでは割安な運賃で利用できるため、賢く活用すれば消費者にもメリットのある仕組みだといえるでしょう。
そのほか、ダイナミックプライシングの事例はこちらの記事でも紹介しています。ぜひご覧ください。
まとめ
ホテルやアミューズメントパークなど、レジャー関連業界で活用が先行しているダイナミックプライシングですが、近年では生活のさまざまな場面に浸透しつつあります。
AI活用でダイナミックプライシングの導入が容易になるなか、今後はより幅広い業界でダイナミックプライシングの普及が進む可能性が高いといえるでしょう。
■記事作成:メトロエンジン株式会社
2016年創業。ダイナミックプライシングを活用したSaaSシステムのパイオニアとして躍進。ビックデータから人工知能・機械学習を活用し、客室単価の設定を行うダイナミックプライシングツールをホテルなど宿泊事業者に提供。また、レンタカー業界や高速バス業界など幅広い業界のDX支援事業も展開している。
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