近年、「ダイナミックプライシング」という言葉を見聞きする機会が増えたと感じている人も多いのではないでしょうか。「ダイナミックプライシング」とは、需要と供給の状況に応じて商品やサービスの価格を変動させることです。古くは旅行業界を中心に活用されてきましたが、最近では他業界でも活用が広がっています。
ダイナミックプライシングとは何か、ダイナミックプライシングのメリット・デメリットや活用事例について、わかりやすく解説します。
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ダイナミックプライシングとは?
「ダイナミックプライシング」とは、条件に応じて商品やサービスの価格を頻繁に変動させる仕組みのことです。「ダイナミック」は「動的」、「プライシング」は「値決め」を意味し、日本語では「変動料金制」「価格変動制」とも呼ばれます。
最近は幅広い業界でダイナミックプライシングが活用されるようになってきましたが、古くからダイナミックプライシングが根付いているのが旅行業界です。ダイナミックプライシングが普及したきっかけは、1970年代、アメリカの航空会社が変動価格を導入したことだといわれています。
航空運賃やホテルの宿泊料金は、季節や曜日などによって大きく変動します。さらに、利用する日程だけでなく、予約のタイミングも重要です。ホテルでいえば、同じ日程、同じホテルの同じ客室であっても、予約するタイミングによって料金が大きく異なるケースも珍しくありません。
「需要が集中する年末年始やゴールデンウィークには料金を上げて、需要の少ない平日は料金を下げる」「直前になっても空室が残っている場合は、売り切るために料金を下げる」というように、需要と供給の状況に応じて柔軟に価格を変動させるのがダイナミックプライシングの特徴なのです。
ダイナミックプライシングについてはこちらの記事でも紹介しています。
ダイナミックプライシングの仕組み
需要に応じて価格を上げたり下げたりするからこそ、ダイナミックプライシングの成否は「いかに正確に需要を予測し、それに基づいた最適な価格を設定できるかどうか」にかかっているといっても過言ではありません。
ダイナミックプライシングにおいては、どのようにして価格が決まっているのでしょうか。
ダイナミックプライシングにおいては、「データ収集・分析」と「需要予測」という2つのプロセスを経て価格が決定されます。需要に対して最適な価格を設定するためには、月別売上や顧客動向、経費(固定費・変動費)などさまざまな要素を考慮する必要があります。そのため、データ分析の精度が低いと正しい需要予測ができず、最適な価格が導き出せないリスクが出てきます。
以前は人間が「データ収集・分析」「需要予測」「価格設定」を行っていましたが、最近ではこの分野でもビッグデータやAIの活用が進んでいます。宿泊需要に関するビッグデータを基に、AIがリアルタイムで最適な料金を導き出すことにより、現場の負担を抑えながらダイナミックプライシングが行えるようになっているのです。
AIを活用したダイナミックプライシングについてはこちらの記事で紹介しています。ぜひご覧ください。
ダイナミックプライシングのメリット・デメリット
需要に応じて柔軟に価格を変動するダイナミックプライシングには、メリットとデメリットの両面があります。企業側・消費者側、それぞれのメリット・デメリットについてみていきましょう。
企業のメリット
ダイナミックプライシング導入による企業側のメリットは、商品在庫や設備、人的リソースなどを有効活用できることです。ホテルでいえば、宿泊需要が少ないときに料金を下げ、需要を平準化することによって、客室稼働率の向上につながります。
また、大型連休など需要が高まる時期には思い切って料金を上げることにより、収益の最大化を図ることができます。
企業のデメリット
一方、企業からみたダイナミックプライシングのデメリットは、実施のためのシステム導入にコストがかかることです。ダイナミックプライシングによって収益最大化に成功すれば投資を回収できますが、100%成功するという保証はありません。
また、消費者から見ればダイナミックプライシングは「自分が予約(購入)した後に商品やサービスの価格が下がる」という可能性をはらんでいます。需要が集中する時期に一気に価格が上がることに対して、「足元を見られている」と感じる消費者も少なくないでしょう。このように、過剰なダイナミックプライシングは消費者の反感を招き、ユーザー離れにつながりかねないというデメリットもあります。
消費者のメリット
その一方で、ダイナミックプライシングは消費者側にもメリットがあります。需要が少ない時期には、商品やサービスを通常よりもお得な価格で利用できるからです。
旅行でいえば、閑散期に旅行ができる人にとっては「ホテルに安く泊まれる」「飛行機に安く乗れる」というメリットがあり、お得感を感じやすいでしょう。
消費者のデメリット
反対に、需要が高まるときにしか利用しない(できない)人にとっては、ダイナミックプライシングは頭の痛い仕組みです。
わかりやすい例でいえば、お正月やゴールデンウィークにしか旅行ができない人は、閑散期に比べ大幅な出費増を覚悟しなければなりません。航空運賃やホテルの料金が高騰してしまうために、旅行自体を諦める人も出てくるでしょう。
また、同じ商品やサービスであっても、利用する時期、予約(購入)するタイミングによって価格が変動するために、リサーチや意思決定に時間がかかるというデメリットもあります。
ダイナミックプライシングを活用した事例
旅行業界で先行しているダイナミックプライシングですが、近年では他業界にも活用が広がっています。さまざまなダイナミックプライシングの活用事例をみてみましょう。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの入場チケット
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、2019年から入場チケットにダイナミックプライシングを導入しています。
社内的には「変動価格制」と呼ばれているこの仕組みが導入された目的は、繁忙期と閑散期のチケットに価格差を付けることによって、入場者数を平準化し、ゲスト満足度を向上することでした。曜日ごとの来場予測、予約の消化率などのデータに基づいて、数ヵ月先までのチケット価格が決められています。
ローソンのコンビニ弁当とお惣菜
コンビニ大手のローソンは、食品ロス削減のためのダイナミックプライシングを試験的に導入しました。電子タグ(RFID)を活用することで消費期限が近づいているお弁当やお惣菜を特定し、登録ユーザーにLINEで通知。メッセージを見たユーザーが該当の商品を購入すると、後日LINEポイントが還元されるという仕組みです。
この実証実験は経済産業省主導で行われたもので、ダイナミックプライシングは企業の利益最大化だけでなく、食品ロスのような社会課題の解決策としても期待されています。
横浜F・マリノスの観戦チケット
サッカーJリーグの横浜F・マリノスは、2019年に試合日程や席の種類、市況、天候、個人の嗜好などに関するビックデータに基づいたダイナミックプライシングを導入しました。
人気のある試合やキャパシティの小さい会場での試合のチケット価格を上げ、不人気試合や、席数が多く売れ残りやすい席種のチケット価格を下げることによって、収益最大化と稼働率の向上を図っています。
Hotel Windsorの客室
インド北部の都市パトナにある客室数77の中規模ホテル「Hotel Windsor」は、2018年にaiosellという企業のダイナミックプライシングシステムを導入しました。
それまでは、ブランドイメージを棄損しないために大幅な値下げを行っていませんでしたが、周辺の格安ホテルとの価格競争に負けてしまっていたのです。また、以前から需要に応じた柔軟な料金調整の重要性は理解していたものの、料金変更を手動で行っていたため、変更の頻度は週1回程度にとどまっていました。
ダイナミックプライシングシステム導入後は、季節や曜日、予約のタイミングなど、さまざまな要素に基づいて、柔軟な料金変更が自動で行えるようになりました。ただし、ブランドイメージを棄損するような過剰な値下げは避け、売れないと判断した客室だけを直前に値下げすることで、稼働率向上を実現。
ダイナミックプライシングシステムの導入は、需要予測や料金変更に伴う現場の業務負荷を軽減することにもつながっているそうです。
ダイナミックプライシングの他の成功事例はこちらの記事をご覧ください。
まとめ
旅行業界のみならず、さまざまな業界で活用が広がっているダイナミックプライシング。当然、メリットもあればデメリットもあるため、ダイナミックプライシングの導入にあたっては、できるだけダイナミックプライシングのメリットを最大限に引き出すことが大切です。
そのためには、システムの活用による需要予測や価格変更の自動化・効率化が成否を分けるポイントのひとつとなるでしょう。
■記事作成:メトロエンジン株式会社
2016年創業。ダイナミックプライシングを活用したSaaSシステムのパイオニアとして躍進。ビックデータから人工知能・機械学習を活用し、客室単価の設定を行うダイナミックプライシングツールをホテルなど宿泊事業者に提供。また、レンタカー業界や高速バス業界など幅広い業界のDX支援事業も展開している。
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