多くの方がダイナミックプライシングという言葉を聞いたことがあるものの、実際にどのようなシーンで活用されているのか具体的にイメージできないかもしれません。
しかし、実はさまざまな業界・シーンでダイナミックプライシングが効果的に利用されています。今回は、ダイナミックプライシングがどのように活用されているのか、そして適用が向いている商品やサービスについて、具体的な事例を交えて解説します。
自社の商品やサービスにダイナミックプライシングの導入を検討している方は、ぜひこの記事の事例を参考にしてみてください。
Contents
ダイナミックプライシングとは?
ダイナミックプライシングとは、簡単にいってしまうと需要に合わせて価格が変動する商品・サービスを提供する仕組みです。
本来の目的は、得られる収益の最大化で、
- 需要が増加する見込みのある商品・サービスの価格を上げ、通常の売上高よりも多く利益を出す
- 需要があまり見込めない商品・サービスの価格を下げ、売れ残りを出すよりも利益を上げる
といった使い方がされます。
また、副次効果として利用客の分散化が期待できます。特にシーズンや期間によって需要が大きく異なる事業の場合、閑散期の損失をなるべく防ぎたいはずです。
そこで、ダイナミックプライシングによって顧客側が「自分は商品・サービスの安い時期に利用できるから、高い時期は避けよう」といった選択が可能になります。
そうすると、閑散期の利用客の増加につながります。
ダイナミックプライシングの基本についてはこちらの記事をご覧ください。
ダイナミックプライシングに向いているもの
自社商品・サービスにダイナミックプライシングを取り入れるかの判断材料として、以下の2点に該当するか考えると当てはめやすくなります。
- 在庫を繰り越せないもの
- 商品の希少性が高いもの
以上の2点が該当する商品・サービスは、ダイナミックプライシングに適しています。では、なぜ向いているのか、詳しくみていきましょう。
在庫を繰り越せないもの
在庫を繰り越せないものを取り扱っている事業は、ダイナミックプライシングが最適です。
例えば、ホテルや航空業界は部屋あるいは席を提供するサービスなので、当日にどれだけ利用してもらえるかが収益になります。
その日に利用できる部屋・席は、次の日になると無価値なものとなるため、当日までに在庫を全て売り切ってしまわないといけません。
残った在庫分だけ損失になるので、残りそうな在庫の価格を下げて集客を促すことで、その日の利益最大化を狙うことができます。
商品の希少性が高いもの
希少性の高い商品を取り扱う場合も、ダイナミックプライシングは有効です。
例えば、美術品や骨董品がいい例でしょう。 市場に出回っている個数が少なく、価値のある美術品や骨董品に関しては、何百円〜何千万円という値段が付いているものが多いです。
しかし、完成当時には画家・作家が無名だったため、価格がつかないような作品だったケースも珍しくありません。
このように、オリジナリティがある、あるいは希少性が高い商品・サービスについては、ダイナミックプライシングによって利益の向上が期待できます。
ダイナミックプライシングに向いていないもの
全ての商品・サービスにダイナミックプライシングが向いているかとなると、決してそうではありません。
- 商品の価値があまり変わらない物
- 顧客の需要データが充実していない場合
以上に該当する場合は、ダイナミックプライシングを取り入れても収益の上昇は期待できないでしょう。
では、それぞれについて詳しく解説します。
商品の価値があまり変わらない物
需要と供給のバランスが整っており、商品の価値が変わらないような商品・サービスは、ダイナミックプライシングに不向きです。
例えば、コンビニで販売されているおにぎりがあげられます。コンビニで販売されているおにぎりは、消費期限や個数によって価格変動することはありません。
もし、納品されたおにぎりが少ないからといって、コンビニごとに値段をあげていると、顧客から反感をかい、ブランドイメージを損なう恐れがあります。
コンビニでは値下げを行わない、というイメージが価値であり、顧客のニーズに応えた結果です。
このように、商品の価値があまり変わらないものには、ダイナミックプライシングは用いない方がいいでしょう。
顧客の需要データが充実していない場合
ダイナミックプライシングを行うには、自社を利用する顧客の需要データや競合のデータが必要です。
そのため、データの収集が伴っていない状態でダイナミックプライシングを行うと、需要がわからず、損失が大きくなるリスクがあります。
特に注意してほしいのが、ダイナミックプライシングを取り入れる判断基準を販売数にしてしまうケースです。
価格が安ければ安いほど購入障壁が低くなるため、販売数は多くなります。
しかし、価格を下げたときの販売数が多い点だけで需要があると考えてしまうと、価格の高い状態のときは一切売れない状態になる可能性が高いです。
ダイナミックプライシングが有効なのかは、価格の上下どちらのデータも収集して判断しましょう。
ダイナミックプライシングの活用事例
日常生活を見てみると、実にさまざまな場面でダイナミックプライシングを活用しています。ここでは、主な活用事例についていくつかあげていきましょう。
航空業界
ダイナミックプライシングとして活用されている業種として有名なのが航空業界です。
飛行機の搭乗チケットを購入する際、搭乗日から前であるほど安い価格帯で入手できるような仕組みになっています。
どのくらいの割引率になるのかは航空会社によって異なりますが、ANAでは最大85%、JALでは最大87%の割引が適用される場合があります。
また、搭乗日から何日前に予約するかでも適用される割引率は変わり、
- 75日前
- 55日前
- 45日前
- 28日前
- 21日前
以上の5段階で購入可能です。
飛行機は、当日かつ限られた時間で在庫を売り切らなければならないため、顧客確保のために早い段階での割引サービスを提供しています。
もちろん当日や需要が高くなる時期には割高料金で提供となるため、安く利用するためには将来を見据えた利用が必要です。
具体例として、ANAは、ダイナミックプライシングを活用して需要予測を行い、航空券の価格を柔軟に設定しています。
これにより、ピーク時には高い価格で、オフピーク時には低い価格で航空券を販売することができ、利益を最大化しています。
また、LCCは、ダイナミックプライシングを導入し、顧客の需要や競合他社の価格設定に応じて航空券の価格を調整しています。これにより、より多くの顧客にアピールし、市場での競争力を向上させています。
テーマパーク
ディズニーランドでは、2021年3月に平日・休日といった価格帯の違いがありましたが、2021年10月には需要によって変動する仕組みを取り入れました。
需要も4種類に分け、それぞれ500円単位で価格が異なり、最大1,500円の差が出るのが特徴です。これにより、繁閑の差を小さくすると共に、最大限の利益を高めることに成功しています。
スキー場
シーズンによって繁閑の差がはっきりしているスキー場でも、ダイナミックプライシングは有効です。
利益の最大化を狙うのはもちろんのこと
- 早期予約の利用客確保
- 長期利用客の確保
この2点が、収益の安定化に良い影響を与えます。
また、天気によっても需要は増減するので、その日の天候に応じた割引モデルも実施する場合もあります。
特に長期利用客の確保はスキー場運営において重要なため、早い段階での予約で安くなるサービスを提供するのです。
Airbnbなどの民泊サービス
最近では、個人所有物件を宿泊施設としてレンタルできる民泊サービスが、国内でも普及しつつあります。
民泊サービスでは基本的に提供者側で料金価格を決定できますが、素人がダイナミックプライシングを活用するのは難しいです。
そこで、Airbnbでは
- シーズン
- リスティングの人気度
- リスティングの掲載情報
- 予約履歴
- レビュー履歴
などの要素をもとに、宿泊施設の最適価格を提案してくれるシステムが導入されています。
鉄道
日本でも導入を検討する情報が出ていますが、海外ではすでに鉄道会社でダイナミックプライシングが導入されています。
電車が混む時間帯の利用料金を高くし、空いてる時間帯を安くすることで、乗車時間の平均化が狙いです。
実際、ロンドンの地下鉄では平日の以下の時間帯以外での利用を安くするダイナミックプライシングが導入されています。
- 6:30〜9:30
- 16:00〜19:00
日本の鉄道も、今後の動向に期待できるでしょう。
ホテル
ホテルでダイナミックプライシングを導入する際
- 平日か土日祝日
- 周辺イベントの開催状況
- 立地
- 予約時期(早いほどお得に)
以上の要素によって、価格を変動させる取り組みが行われています。
実際、相鉄ホテルでは、宿泊日から
- 90日前
- 60日前
- 45日前
- 30日前
- 15日前
の5段階で宿泊料金が割引になるプランを提供しています。
また、宿泊当日から換算して何日前に取り消しするのかによってキャンセル料金が変わるのもホテルのダイナミックプライシングの特徴です。
ダイナミックプライシング導入のポイント
ダイナミックプライシングを導入する際には、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
データ分析の重要性
ダイナミックプライシングでは、需要や在庫、競合他社の価格などのデータをリアルタイムで分析することが重要です。適切なデータ分析により、最適な価格設定が可能になります。
需要予測の向上
需要予測の精度を向上させることで、ダイナミックプライシングの効果を最大限に引き出すことができます。需要予測には、過去のデータや季節性、イベントなどの要因を考慮して行うことが求められます。
顧客とのコミュニケーション
ダイナミックプライシングは、顧客に対して柔軟な価格設定を提供することで、顧客満足度を向上させることができます。しかし、価格変動による顧客の混乱を避けるために、価格設定の仕組みや変動要因を適切に伝えることが重要です。
また、残念ながらダイナミックプライシングの導入に失敗してしまった事例も存在します。同じ失敗を繰り返さないためにも、ぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は、ダイナミックプライシングの活用事例についてご紹介しました。
今回紹介しきれませんでしたが、他にも映画館やライブチケット、レンタカーや駐車場などもダイナミックプライシングは取り入れられています。
ぜひ、自社が提供する商品・サービスに向いているのかを見極め、適切かつ最大限の収益が生まれるよう検討していきましょう。
■記事作成:メトロエンジン株式会社
2016年創業。ダイナミックプライシングを活用したSaaSシステムのパイオニアとして躍進。ビックデータから人工知能・機械学習を活用し、客室単価の設定を行うダイナミックプライシングツールをホテルなど宿泊事業者に提供。また、レンタカー業界や高速バス業界など幅広い業界のDX支援事業も展開している。
サービスに関するお問合せはこちらから