近年、「OTA(Online Travel Agent)」は多くの宿泊施設に活用されています。いつでも誰でも、気軽に予約が可能なため、コロナ禍以降の団体旅行から個人旅行への変化や、インバウンド人気の高まりの影響もあり、OTAの利用はさらに拡大しています。
この記事では、OTAの基本的な概念から、宿泊業界で導入する際のメリット・デメリットや実際の利用率を解説し、具体的な活用方法までご紹介します。
これからOTAを導入しようと考えている方、すでに導入しているがもっと効果的に活用したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
ホテル事業におけるOTAとは?
OTAとは、Online Travel Agentの略称で、インターネット上のみで営業する旅行代理店です。実店舗を持たないこのスタイルでは、航空券、宿泊施設、現地のオプショナルツアーなど幅広い商品を販売しており、24時間365日いつでも閲覧・予約することが可能です。1つのサイトで複数の宿泊施設を比較・予約できるため、国内では特に若い世代を中心に利用されています。さらに多言語にも対応しているため、インバウンド客にも人気があり、市場規模も拡大しています。OTAには、国内サイトだけでなく、外資系サイト、地域限定サイト、会員限定サイトなど様々なタイプが存在します。
多言語化の重要性については、こちらの記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。
旅行会社・OTA・メタサーチの違い
ホテル予約の際によく利用されるルートとして、旅行会社、OTA、メタサーチの3つの主要なサービスが存在します。それぞれの違いを簡潔に紹介します。
まず、OTA(Online Travel Agent)は、上述した通り、インターネット上で取引を行う旅行会社です。楽天トラベルやじゃらんnetなどが代表的で、宿泊施設や航空券、ツアーの予約・販売を24時間365日オンラインで提供しています。インターネット専業であるため、実店舗を持たず、予約ごとにポイントを獲得できるなどの利点があります。
一方、旅行会社は、実店舗を構えて旅行商品の企画・販売を行います。JTBや近畿日本ツーリストなどがこれに該当し、対面でのサービス提供や顧客の希望に応じたオーダーメイドの旅行プランを提供します。
メタサーチ(メタ検索エンジン・比較サイト)は、複数の旅行予約サイト(OTA)を横断的に検索し、結果を比較できるサービスです。trivagoやトリップアドバイザー、スカイスキャナーなどが代表的です。様々なホテルの情報を集約し、価格やプランを比較するため、幅広い選択肢を提示し、最安値を探すことができます。
OTA、旅行会社、メタサーチにはそれぞれ独自の強みがあり、利用シーンや目的に応じて使い分けることで、旅行の計画がよりスムーズになります。
ホテル事業におけるOTAの利用率
国内での利用率
一般社団法人日本旅館協会が実施した、「令和5年度 営業状況等統計調査」によると、国内旅行者のOTA利用率は「43.3%」と高い水準です。令和元年度の同調査と比較すると12.4 ポイント増加しています。一方、旅行代理店などの店舗経由の予約は、令和元年度から14.1 ポイ ント減少し、26.8%となっています。
また、国内宿泊施設のインターネットでの予約受付方法に関する調査では、97.9%が自社ホームページとOTAの両方で販売しており、多くの宿泊施設がOTAを利用していることがわかります。コロナ禍を経て、旅行会社が営業を再開したとはいえ、OTAの人気は根強いようです。
インバウンド(訪日外国人)の利用率
日本でのOTA利用率は増加していますが、訪日外国人の利用はさらに顕著です。日本政府観光局が公表した「日本の観光統計データ」によると、2019年の訪日客による旅行予約の70%以上がインターネット経由となっています。これは、訪日客が未知の土地で宿泊施設を検索する際の便利さや、多言語対応に対応したサイトのわかりやすさなどの利便性が大きく影響していると考えられます。世界的に見ても、OTA市場は急激に拡大しています。グローバル市場調査会社のAllied Market Research社によれば、2020年に3,542億ドルと評価されている世界のオンライン旅行市場は、2031年までに1兆8,356億ドルに達すると推定されています。このように、OTAは今後も多くのユーザーに利用される見通しです。
インバウンド対策についてはこちらの記事で詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
ホテルでOTAを導入するメリット
宿泊施設で、OTAを導入することによるメリットは次の3つです。
・24時間365日予約受付可能
・初期費用が不要
・販路を拡大できる
ここからメリットについて詳しく解説していきます。
24時間365日受付可能
OTAの大きな利点は、インターネットのみで完結できる販売方法のため、空室さえあれば、ユーザーの都合に合わせていつでもどこでも予約を受付できるところです。すでに予約された部屋がキャンセルになっても、基本的には自動で再販売され、機会損失なく予約を受け付けることができます。
初期費用が不要
OTAは掲載時に初期費用がかかりません。月々のランニングコストも不要なため、簡単な初期設定を行うだけで気軽に導入することができます。宿泊実績に基づいて送客手数料が発生するものの、平均10%程度と旅行代理店より安価に設定されています。さらに、OTA各社が提供するSALEやキャンペーン、特集に追加費用なしで参加できるチャンスもあります。
販路拡大&認知度アップにつながる
OTAは、多くの情報を掲載できるうえ、詳細な検索機能が備わるため、自社サイトやSNSではアプローチしにくいユーザーに対してもアプローチが可能です。さらに、OTAは多言語に対応しているため、インバウンドの集客も可能になります。加えて、OTAのページは検索エンジンの上位表示が期待され、多くの人に閲覧されるため、宿泊施設の認知度向上にもつながります。
ユーザーが宿泊施設を選択する基準はいくつかあります。こちらの記事もぜひ参考にしてください。
ホテルでOTAを導入するデメリット
OTAの利用は、宿泊施設にとって有効な手段であることがわかりました。初期費用なしで導入できるのは魅力的ですね。一方でOTAには様々なデメリットも潜んでいます。
・送客手数料がかかる
・キャンセルリスクが高まる
・低価格競争になりやすい
これらのデメリットについても解説していきます。
送客手数料がかかる
OTAは初期費用や掲載料がかからないものの、宿泊実績に応じて8〜12%程度の手数料が発生します。予約が増えるほど、この手数料も増えるため、利益を圧迫する可能性があります。一方で、旅行代理店などでは15%程度の手数料が発生するため、代理店を経由する中では比較的安価に設定されています。自社サイトや直予約をメインとする宿泊施設にとっては、費用が高く感じられるかもしれませんが、先に述べたようにメリットもあるため、バランスをみて上手に活用することが重要です。
キャンセルリスクが高まる
24時間365日予約受付可能な点がOTAの魅力ですが、操作が簡単な分、気軽にキャンセルされてしまう場合も多くあります。早めのキャンセルであればまだいいですが、直前でのキャンセルやノーショウ(無断不泊)によって、損失が出てしまうこともあるでしょう。対策として、キャンセルポリシーをしっかりと設定し、事前決済やカードの登録等を行うことでキャンセル料金の請求漏れを防いでいきましょう。
低価格競争になりやすい
OTAの利用者は価格を重視しやすい傾向があり、低価格競争が避けられません。その結果、サービスの質を犠牲にしてコストを削減する動きが出てきてしまうこともあります。サービスの質の低下は、結果的にユーザーの不満を生むリスクが高まります。エリアの価格帯や、競合他社の値付けを確認しながら、適切に価格をコントロールする必要があります。
価格の適切な管理には、レベニューマネジメントが重要です。こちらの記事で紹介していますのでぜひご覧ください。
OTAを上手に活用するポイント
ここまで、OTAの基本から、メリット・デメリットまでを解説してきました。では、実際に、OTAをうまく活用するにはどうすればいいのでしょうか。具体的なポイントは以下の4つです。
・正確かつ魅力的なページを作成する
・施設に適したOTAを選択する
・口コミやレビューを適切に管理する
・自社サイトへの流入を増やす販路として活用する
ここから、それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
正確かつ魅力的なページを作成する
OTAの施設ページは、宿泊施設の顔となる重要な部分です。掲載する写真には見栄えのいいものを使用するのはもちろん、実際に宿泊したときのイメージがつきやすい、詳細な画像を載せるとよいでしょう。また、画像だけでなく、文章や細部の設定も重要です。アメニティや駐車場、設備などについても、有料なのか、どんなものがあるのかといった情報を正確に掲載し、閲覧すれば疑問点が解消されるようなページを目指しましょう。オンラインでの販売だからこそ、より具体的に宿泊イメージを持ってもらうことで、施設の魅力をユーザーにアピールすることにつながります。
施設に適したOTAを選択する
効果的な集客を目指すならば、自社と親和性の高いOTAを選択することが重要です。ファミリー層をターゲットにするなら「じゃらんnet」、1~2名やビジネス利用をターゲットにするなら「楽天トラベル」が適しています。また、訪日客をターゲットにする場合は、海外のOTAを利用すると良いでしょう。ただ、登録者数の多いOTAは競合も多いため、戦略的な利用が大切です。各OTAには独自の特色があり、それに合わせて様々な客層へアプローチできます。自施設のターゲット層や他の要素をしっかりと考慮して選ぶことが大切です。各OTAの特徴はこの後紹介します。
口コミやレビューを適切に管理する
OTAでは、各施設のページにユーザーからの口コミが掲載されます。トリップアドバイザーの2022年9月の調査では、約7割がオンライン上の「良い」レビューを参考に宿を予約しているというデータも出ています。前向きな口コミはもちろん、反対にクレーム等の低い評価がつけられてしまうこともあります。このようなレビューは施設の印象を大きく左右するため、適切に対応し、管理することが重要です。
自社サイトへの流入を増やす販路として活用する
OTAを利用し、ユーザーを自社サイトへ誘導する戦略も効果的です。インターネット上の集客において、最も重要視したいのは手数料のかからない自社サイトです。OTAで予約するユーザーの90%が自社サイトを確認するというデータ(2016年, 株式会社宿泊予約経営研究所の調査)もあるため、自社サイトは重要です。特に、価格を比較した際に、OTAよりも自社サイトが必ず安く表示されるようにすることで、HPへの流入率UPにつながります。自社サイトの価格を常に競争力あるものにして、流入を促進しましょう。
宿泊施設の集客については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
国内の代表的なOTA5選
OTAをうまく活用するには、宿泊施設の特色に適したOTAを選択することが重要です。では、国内の主要なOTAにはどんなものがあるのでしょうか。
楽天トラベル
楽天トラベルは、楽天グループが提供する国内最大級の旅行予約サイトです。お得なキャンペーンやイベントが豊富で、特に楽天スーパーセールの還元率や楽天カードとの組み合わせが人気です。ビジネスマンを中心に、1名~2名利用の30~50代を中心とした幅広い層からの支持を受けています。また、楽天独自のパッケージ予約で航空会社のマイルも貯まるサービスも展開。楽天経済圏の利用者にとっては、お得に予約ができるサイトとして人気があります。
じゃらんnet
じゃらんnetは、リクルートグループが運営する国内最大規模のOTAで、約2万7,000件以上の宿泊施設情報を掲載しています。旅行雑誌がもととなっており、特にファミリー層や温泉好きの女性に人気で、温泉宿が豊富に取り揃えており、「源泉掛け流し」や「にごり湯」のような細かなカテゴリーでの検索が可能です。また、「日帰り」や「出張」といった目的別検索や旬の特集、家族連れやペット可の宿などの充実したコンテンツが特徴です。リクルートポイントやPontaポイントが使用可能で、アクセス数や予約数も国内トップクラスを誇ります。
一休.com
一休.comは、2000年5月にサービスを開始した高級ホテル・旅館に特化した予約サイトです。運営は現在Yahoo!が行っており、「こころに贅沢させよう」というモットーのもと、厳選された施設のみを掲載しています。そのため、客層は富裕層や平均年齢40代の方々が中心です。一休.comビジネスでは高級ビジネスホテルを、一休.comレストランでは高級レストランを取り扱っています。特典豊富なプレミアムサービスも提供しており、2007年には「Yahoo!トラベル」との連携も開始されました。
Yahoo!トラベル
Yahoo!トラベルは、大手検索サイトYahoo! JAPANが展開するOTAで、グループの一休.comと連動し、約17,000軒の宿泊施設情報を提供しています。PayPayポイントとの連携や、JTB・るるぶトラベルと宿泊プランを比較できる機能があります。豊富な会員数を誇り、Yahoo!とソフトバンクのユーザー4,000万~6,000万人にアプローチが可能です。宿泊予約やホテル予約だけでなく、季節に合わせたお得なキャンペーンも人気の理由です。
るるぶトラベル
るるぶトラベルは、JTBグループが運営するOTAサイトで、国内外の宿泊施設情報を提供しています。約18,000軒の宿泊施設が登録されており、JTBホームページとの連携やagodaとの提携により、海外からの顧客誘致も強化されています。豊富な提携宿により、キャンペーンやクーポンの適用が多く、安価な宿泊プランを提供しています。
海外の代表的なOTA5選
ここでは、海外の主要OTAを紹介していきます。
Booking.com
Booking.comは、世界最大級の旅行予約サイトで、約70カ国でサービスを展開しています。ゲストハウスからリゾートホテル、グランピングや船上ホテルなど、世界で2,900万軒以上の施設が掲載されており、日本版は2009年に設立されました。特に「キャンセル無料」や、「Genius」ロイヤルティプログラムなどのサービスが強みになっており、インバウンド集客にも最適なOTAと言えます。多くの旅行者やビジネスマンに利用されています。
Expedia
エクスペディアは、アメリカ生まれの世界最大級のオンライン旅行予約サイトです。元々はマイクロソフトが開発し、2012年には世界最大の予約額を達成しました。宿泊予約のみならず、航空券やレンタカーなどのダイナミックパッケージも扱っています。日本語サイトもあり、国内外の旅行予約が可能です。契約施設数は世界で約300万軒にのぼり、売上高や取り扱い額では世界トップクラスを誇ります。
Agoda
Booking.comグループの一員で、シンガポールを拠点とし、アジアを中心に展開しているOTAです。価格の安さが特徴で、常に変動する料金設定により最安値での予約が可能です。ただし、ホテルで設定した金額と実際の決済金額に相違が生じることがあるため、宿泊料金に関する話をする際には注意が必要です。サイトはシンプルな構造で、検索がしやすく、予約までの導線がスムーズです。アジアでの予約に強いという特徴があります。
Trip.com
中国のOTAとしては最大手で、アジアを中心に人気を集める大手OTAサイトです。プロモーションプランに力を入れ、割引コードを配布してお得な価格での宿泊を提供し、ポイント制度や会員ランク制度も充実しています。特にアジアでの露出や最安値表示に注力しており、アジアでの旅行や宿泊に最適なサイトです。Trip.comは世界200ヶ国以上、140万軒の宿泊施設と提携し、フライトや鉄道の予約も可能です。
Airbnb
Airbnbは、空いている部屋や家を貸し出すための民泊系OTAサイトです。小規模施設でも参加しやすく、ホストからするとお得な価格で提供でき、ゲストは一棟借りなど他のOTAにはない宿泊施設の予約が可能です。セルフチェックインシステムや清掃費用の設定など、独自の運営スタイルが特徴です。アメリカ発のAirbnbは、世界191カ国以上で利用され、ホストとゲストのニーズをマッチングするサービスとして、地元の人々が所有する空き家に宿泊できる点が魅力です。
まとめ
今回は、OTAについて、用語解説からメリット・デメリット、具体的な活用方法まで詳しく解説しました。インターネット上で簡単に宿泊施設の予約が可能なOTAは、今後もさらに利用率が高まっていくでしょう。OTAにはデメリットもありますが、うまく活用できれば宿泊施設の認知拡大・販路拡大につながります。本記事を参考に、ぜひOTAをうまく活用してみてください。